2012年 10月 11日
地上の飛行機 |
波打つ美瑛の丘の峠を目指し、思いっきりスロットルを開けると、解き放たれた獣の咆哮のような排気音を大地に叩きつけ、道の先に繋がっている空に体が浮いていくような錯覚に陥ったり、ワインディングロードでは、十勝岳連峰が右後方に流れ去ったと思ったら、左前方の丘の上から迫ってきたりする。まさに、バイクは地上の飛行機である。そして、刈り込んだばかりのむせかえるような牧草の臭い、強烈なシシウドの花の臭い、クリの花のむっとする臭い、息を止めたくなるような肥やしの臭い、心が癒やされるようなラベンダーの花の臭いが嗅覚を刺激してくる。一休みしたときに食べる富良野メロンの旨味は、体幹までをも刺激してくれる。エンジンを切ると、ひばりのさえずりが賑やかで、爽やかな風の吹き抜ける音が頭の中を流れる。
知床の漁師の案内で、一般の人は入れない自然世界遺産の知床半島の番屋の生活を体験してきた。ルシャの番屋である。ここの番屋が世界的にも有名になったのは、人間と熊の共存が行われていることである。現に、私が訪ねた時も、番屋周辺で出会った熊は一日で23頭にも及び、10mの距離で震えながら写真を撮った。この番屋で仕事をしている漁師達は、熊が近づいてきても無視しながら仕事をしている。熊も人間に対して悪さをしない。ここには熊と人間の暗黙の境界があり、たまにその境界を越えて熊が近づきすぎた時、大船頭の大瀬初三郎は「コノヤロウ、帰れ!」と大声で叫ぶ。そうすると、熊は一瞬立ち止まり、意味がわかったように遠ざかっていった。不思議な光景だった。
知床は世界遺産に登録されたため、開発は抑えられ、人間(漁師)が自然の恵みに感謝しながら生活をしており、熊へ恐怖を与えるようなことはしない。そして、ここの熊達は豊かな食料に恵まれた生活をしている。動物は豊かな食料があれば、無益な争いはしようとしない。海岸で獲物を食べている熊に、強い熊が近づいてくると、今まで食べていた熊は静かに立ち去る。
by hd-domon
| 2012-10-11 11:54
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