今年もシュカブラ(風雪紋)を求めて、大雪山の主峰・旭岳に5泊6日の予定で行ったが、去年、悪天候のために待機中に知り合った山岳ガイドによれば、「シュカブラを撮るためには1ヶ月の日程でも運が良ければ撮れるかも知れない」という覚悟で来ないと、と言われたが、現実的には難しい。
しかし、その言葉通り入山後二日間は悪天候のため、カメラすら出せない待機が続いた。その間、二日間で新雪が80cmも降り、翌日天気は回復したが、旭岳ロープウェイに並んでも気が重かった。この新雪でシュカブラは覆い隠されたに違いないと、せめて風が吹いてくれればまだしも、ほぼ無風だったのだ。スキーヤーとボーダーは新雪に大喜びで、ロープウェイ運転開始前から長蛇の列ができていた。それにしても、ここのロープウェイ利用者の8~9割は外国人だ。そして、殆どと言っていいくらいバックカントリーを楽しむために旭岳に来ている。管理された圧雪コースを滑る人は、ここの魅力を知らない人達ばかりである。
案の定、深い新雪で、スノーシューを履いてもかなり疲れる。真っ直ぐ歩いているつもりでも、上の写真のようにこんなに曲がっていた。
遠景は旭岳で、山スキー、スノーシュー、アイゼンを使い分けて山頂にアタックする人達も、この姿見の池駅で準備をしてから出発した。
遠くに白く輝く山は当麻岳と安足間岳で、数年前の夏山に登った時、雪渓で熊の親子が遊んでいた。かなりの距離があったが、熊がその気になれば簡単に到達できるであろうと思った時、恐怖を感じたが予定通り登山を進め、愛山渓に下山した。
手前に広がる雪原に、本当はシュカブラが広がる予定だったが、全く何も無い。こんなつかみ所の無い場所でガスにまかれたら迷うこと間違いなし。スノーシューの足跡も風が吹けば跡形も無く消えてしまう。状況判断で早目に逃げることだ。
急に暗くなったりするが、一過性のモノかどうかを判断しなければならない。この場合はすぐに好転した。
噴気孔の噴煙がこのように真っ直ぐ昇るのも珍しいくらい風がない。噴煙の右側の尾根を登ること2~3時間で頂上に着くが、もう登り始めている人達がいた。
積雪期は立ち入り禁止の柵が見えないので、噴気孔のすぐ側まで行けるが、有毒ガスなので気をつけなければならない。
二時間半歩き回ったが、シュカブラらしきものさえ見当たらない。夜に風が吹いてくれることを祈るしかない。
翌朝も快晴無風、完全にシュカブラ撮影は諦めて、スノーシュートレッキングを楽しむことに切り替え、重い5Dのカメラは置いていこうと思ったが、未練がましくザックの中に入れた。
爽やかに晴れ渡った山麓から始発ロープウェイに乗ったが、何のために来たのか、と心は晴れなかった。
ところが奇跡が起こった。山頂駅に近づくにつれ、風の痕跡が見受けられるようになったではないか。ロープウェイを降りるやいなや、早足で外にでたら、あるではないかシュカブラが。はやる気持ちを抑えてスノーシューを履き、カメラの準備をして、風の通り道になりそうな地形を見極めて近づくと、出来たてのホヤホヤのシュカブラがあった。吹いた風は弱かったものの、雪も新雪で柔らかかったので、立体感こそ乏しいが繊細な縞模様のシュカブラが朝陽に輝いていた。今までの欲求不満から解き放たれたかのようにシャッターを夢中で切った。今まで見た旭岳のスケールの大きいシュカブラとは違う、繊細なシュカブラは、これはこれで良いモノだと暫し見とれた。
こうなると、疲れも気にすること無く3時間ほど休憩なしで歩き回った。本当は休みたかったが、怪しい雲が広がり始めたので、スキー、ボードと違い下山に時間がかかることを考えて、早めに姿見の池駅を目指した。
つくづくカメラを置いてこなくて良かったと心底思った。
このエリアは自己責任であることを掲示してある。こんな看板を立てなければならないことが問題だ。
今回も頼もしいMSRのライトニングエクスプローラーのスノーシュー。ラチェット式のバインディングは着脱に便利だし、テレベーターは急登に威力を発揮する。そして、足裏の強力な爪はヘタなアイゼンより効果的だ。
今年もお世話になった大雪山山荘は雪に埋もれていた。軒下の雪は屋根から落下して溜まったもので、このままにしておくと本当に埋まってしまうので、助っ人に来て貰って除雪をしていた。オーナーの人望のため、札幌からわざわざボランティアで除雪作業に来てくれるから有り難いものだ。
宿の楽しみは食事と温泉だ。ある日の夕食だが、この他に大鍋があって、おでんが食べ放題だ。そしてお酒は北海道産の酒米彗星で造った上川大雪の純米吟醸種は、生酒のような濃厚な旨味の酒だった。
雪の中を歩き回って、ボロ雑巾のようになった体をやさしくほぐしてくれる温泉は格別で、外の雑木林を眺めながらボーーっとした時間を楽しんだ。
泉質はカルシュウム塩泉で、源泉の高温を調節するために加水している掛け流しで、丁度良い湯加減である。
大人の休日倶楽部のチケットで、丸一日かけて帰ったら、行く前には少し綻びかけていた豊後梅の花が開花していた。
《今回のシュカブラ》